所感
読んだ動機と結論
読んだ動機としては限られる教育費のなかで効率的な方法を知りたかったためです。 また中学受験の必要性の判断材料が欲しかったというのもあります。 読み終えて概ねこれらを得られたと感じます。
予算が無限にあれば好きなだけ教育費に投資すれば良いですが、予算がない中では無理に中学受験をする必要はなさそうです。 あくまで「平均」ですが中学受験の有無による偏差値は1.5~5の差です。 大学で言うと1ランク上の大学群へ入れることになります。 ここへ価値が見出せるかがポイントになります。 一方で、1点差で合格できた・出来なかった人との年収に差がないという結果もあるそうです。 ただ一点気になったのは数学の偏差値の差が5で、これは大きいと感じます。
一番大事なのは子供のモチベーションで、それがなければ投資しても効果が薄いとのことでした。 そこに対する手当をする方が高効率とも感じました。
書籍の内容
結論
コスパの定義は教育費に対する子供の年収です。 この定義に基けば医学部平均は東大平均の700万円の倍の1400万円で最もコスパが良いことになります。
英語教育
新しい観点として英語学習への投資がありました。 前提として日本の教育は世界からみても悪くないのですが英語だけは不足しています。 受験勉強では実用的な英語と結びつかず非効率です。 また、英語を話せるようになるには「正しい勉強法」で3000時間必要で圧倒的に不足しています。 この不足分を家庭で補うという方針です。 著者によれば下記のノウハウです。
正しい発音で1000語覚える、簡単なフレーズをいくつか覚える → 英会話 → 語学留学 → これを中学3年生までに終わらせる。
この辺りの手法をさらに調べるには「バイリンガル教育の方法」という書籍が紹介されていました。 これだけでその後の受験勉強が話すための英語に結びつくそうです。 これは大人になってから英語学習を続けている自分にも身に覚えがあります。 この時期に一生物の英語が身につき受験でも役に立てば相当コスパは良さそうです。 中学受験をしなければ高校受験までに時間があり時間を有効にも使えます。 一方で、子供が小中学生の間に海外留学するモチベーションを引き出せるかが課題に感じました。 やる気がなければ留学先でも日本人と遊び、日本語のコンテンツを楽しんでしまいます。
中学受験
中学受験については上述した通りですが、300万円の塾代を考えれば提供される価値はそれ以上と述べられています。 一番の効果は子供に共通目標を持たせられることだそうです。 塾に入れば自然と郷に従い受験をすることが当然になりますが、家庭学習のみだと受験の動機を維持するのは難しいとのことです。
中学受験で学習する内容について考えます。 国語は共通テストと同じレベルで、理系に進むならここで国語の学習を終わらせられるレベルです。 社会は共通テストと同じレベルの日本史と内容が薄めの地理です。生涯の一般常識となるものの学習をここで終わらせられる点でもメリットです。 理科は指導要領の制限があるので共通テストへの活用は期待できません。しかし、地学については得るものが大きいです。
算数は中学以降の学習では使わない「中学受験算数」になります。これは学習要領の範囲において試験で差をつけるための奇形パズル化が進んだためです。 個人的な意見ではここで鍛えられたパズルを解く力が将来に役に立つ可能性もあると思います。 中学受験組と高校受験組の偏差値の差は国語が1、英語が3ですが、数学が5と大きいの点に寄与しているかもしれません。
高校受験からの大学受験
中高一貫校では5年かけて高校の授業範囲を終わらせて最後の一年は大学入試に備えます。 中学の範囲は内容が薄いので早めに終わらせて、内容の多い高校の範囲に時間をかけます。 一方で高校受験組は3年間でこれを終わらせないといけないのでこの点は不利です。
学歴の価値
一番の実利は就活フィルタで、しかもこれくらいしかないとのこと。 また日本では学歴を過度に気にする文化があるので良いに越したことはないです。
大学へ行く価値
大学の本質を忘れがちですが、本来は学問をする場所で、かつ学者=研究者を育成する機関です。 就職のための場所ではありません。 入試問題もそのために研究者である教授が作成しています。 一方で大半の人は学者になりません。 それでは早くから働いた方が良いのかという考えもありますが、年収の期待値としては大卒の方が高くなります。 待遇の良い企業に入りやすくなるためです。
海外では学士や修士がその業務を行うための免許になっていますが日本ではそのような機能はなく卒業すれば好きな業界で働くことができます。 そのためまじめに勉強しなくても就活さえしていれば良い企業に入れてしまいます。 また日本では大学の序列が変わっていません。 これは大学に競争がないからです。 つまり大学側も授業の質を高めようという活動がなく進化は止まっています。
大学へは箔をつけるために行くのかというとこれはやはり本人のやる気に依存します。 学生全体では勉学に真剣に取り組んでいない割合の方が大きいです。 そのため、熱意のある学生は教授に気に入られ、大学のインフラを独占的して使用分非常に良い環境になっています。
内容で参考になった点
一章 学歴の価値
- 一番の実利は就活フィルタ。しかしこれくらいしかない。
第二章 日本の教育レベルは高い
- 受験は知的競技と同じ。(eスポーツ)
- 中学受験の問題の質は良い。
- 日本がこの競技を行うインフラが整っている
- 東大進学者数が増えると偏差値が上がり進学者数が更に上るというループがあるので学校は全力で良い教育を行う(東大にいれるための教育になる)
東大の入試問題
- 教授が問題を作っているためか非常によくできている
- 学習指導要領の範囲を完璧に理解させた上で毎回新しい切り口で問うてくる
- 他の大学も模倣している
- すべての学校は18時点で東大の問題を解けるように設計されている
- 一科目自体の難易度は他の高レベルな大学より低い場合もある
- 東大が難しいのは科目数が多いこと
- 東大は総合力がつくが一方で専門力が弱くなる
- 大学で学べること
- 大学の序列が変わっていないのは競争がないから=教育内容が変わっていないから=何も身につかない
- 一方でやる気のある学生は教授からも気に入られ、インフラも独占できる
日本の大学のコスパ
- 授業料は圧倒的に安い
- 海外企業は無名企業で下働きして修士をとり実績をつくらないと良い企業とポジションに就けない
- 日本企業は大学を出るだけで提供してくれる
- 日本企業で実績を作ってから外資に転職するか、新卒で外資に入るのが最もショートカットでコスパが良い
三章 カリキュラムの目的
- 大学:その科目の研究者・学者を作るためにできている
- 作るのは教授=研究者である
- 大学の目的は就職訓練ではなく学問をするところである(忘れがち)
- 高校:生徒のあらゆる可能性を潰さないため
- 大学で何を専攻しても使う共通の知識が養成される(例えば数学)
- 大学院:研究者になるための基本知識の養成
- 小中:高校で学習するため
- 博士:論文=新発見をする
- その科目の研究が到達している範囲の先へ出ること
矛盾
- 研究でもビジネスでも既存を疑い問題提起するマインドが必要
- 大学受験までは教科書の内容は全てただしいというマインド
- 入学後にマインドチェンジが必要
四章 中学受験
- 塾の最大のメリットは子どもにみんなと同じ目標、同調圧力をもたせること。これがあるとやるのが普通になる。
- 塾の費用は四年から通って3年で300万円
- 提供される教育内容が非常に良いので安いというのが筆者の感覚
- スパラル方式のカリキュラム
- 4年生で中学受験カリキュラムを一周、5年生で2周目、6年生の半年間で3周目、夏期講習の1ヶ月で4周目、残りを入試問題
- 周を重ねるごとに難易度を上げていく
塾の流れ
- 毎週新しいことを予習不要の授業で行う
- 家庭学習でそれを復習する
- 週末にテストを行う
どの塾に入るか
- 絶対に御三家という理由がなければ、通学時間が無駄になるので一番近いところに入れるべき
- 塾間に多少の雰囲気の違いはあるが大きな差はない
- 子供も入ればそれに慣れる
各科目について
- 国語
- 共通テストと同じレベル
- 受験問題は社会人が最低限必要な漢字や読み書きレベル
- 理系大学に進むならここで国語の勉強を終わらせられるのはコスパが良い
- 社会
- 共通テストと同じレベルの日本史と内容が薄めの地理
- 相性のある国語算数と違い社会は安定した得点源になるので総合得点が安定しやすくなる
- 一般常識の学習をここで終えられるので将来的にみてもコスパは良い
- 理科
- 物理、科学、生物は指導要領の制限があるので共通テストへは活躍できない
- 地学は一般常識として良い
- 算数
- 中学以降の学習では使わない「中学受験算数」となる
- 指導要領の範囲ないでは差がつかないので奇形パズル化が進んだ
- 方程式はない:親が逆算を覚えるか口出ししない
- 鶴亀算などを駆使する
五章 公立高校からの受験
- 私立ー公立高校の偏差値の差:数学5,英語3,国語1
- 学費を払えたという遺伝の可能性もある
- 東京では優秀層が中学受験で抜けるので高校受験が楽と言われる
- 高校数学の勉強量は中学数学の10倍ほどあり、キツイ
- 中高一貫で順調に数学を進められるのは1/3
六章 日本の教育で足りないものを家庭で補う
英語
- 1000時間の学習が必要だが授業だけでは足りない
- 発音と自然な読み方を無視するので良くない面もある
- まずは正しい発音で1000語覚える
- 公文英語はネイティブ発音付きおもちゃ
- 加えて簡単な挨拶と文章も暗記する
- 小学生なら1,2年でクリアしてしまう
- 外国人に英語を習う
- 探して時給3000円くらいで家庭教師をお願いする、オンライン英会話
- 夏休みを利用してフィリピンに語学留学する
- 中学3年生までに英検2級をとるとよい
- 子どもの英語学習の事情を更に詳しく調べる場合の書籍:「バイリンガル教育の方法」
- 正しい受験英語の猛勉強
- 上記をこなして正しい発音と英会話の基本を修得した状態で初めて受験英語が英会話につながってくる
- 話せるようになるには正しい勉強方法で3000時間はかかる
- そのため大半の日本人は英語が話せない
留学
- 最も効果が高いが費用も高い
- 欧米が高く、アジアが安くてマレーシアでは年間200万円程度
- 探し方:コンサルは高いので大使館の留学フェア
- 高いのか?
- 大学生一人暮らしの場合の年間:学費100万円、生活費200万
- 中学受験は塾と学費で総額1000万円
- そこをやめて小学校高学年〜中学生の期間に2年間留学させるのはコスパが良さそう
- 一生物の英語が身につき、授権にも役に立つ
本人次第
- やる気がなければ勉強しない、留学先でも日本人と遊び、日本語のコンテンツを楽しむ
医学部
- 年収の期待値は2倍(金融の世界では異常)
- 定員が規制されているので人が余ることはない
おわりに
子供のために限られた資金で何ができるかを考える上で大変参考になりました。 また本編の内容とは関係ありませんがデータや法律を用いており大変説得力のある書き方は参考にしたいと思います。